ここは京都、一乗寺のラーメンの店、池田屋。
今回は、超絶デカ盛り、太麺で有名な二郎系ラーメンにハマった西部の男に話を聞く。
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カンカンカンカンカンカンカンカンカン、、、、
叡山電鉄の踏切の音が響く。
ふと、店の入り口を見ると、西部の男が立っていた。
カウボーイハットにハーモニカを携えている。
自由蝶番をギィイイと鳴らすでなく、
カラカラと戸を開けて入ってきた。
バーテンダーならぬ店員さんには会釈一つなく、
食券の自販機の前に仁王立ち。
長い沈黙。
やがて青い食券を買うと、筆者の隣に静かに座った
———今日は中*になさるんですか?
ああ
(編集注、池田屋のラーメンのサイズはプチ、小、中、大の4つ。そこからトッピングを載せていく。
大の野菜マシマシが考え得る上限。プチは標準的なサイズ。麺の量はプチ180g小300g中400g大500g)
———中の野菜マシマシ?
いや、マシだ
———おかしいな、あなたほどの人が
何故?
———だって、野菜マシマシは男の勲章だって
さあ、そんな事言ったっけな、、、
———しかも、中だなんて、、、大のマシマシを食うヤツが本当の男の中の男だっておっしゃってたのに
(沈黙)
———見損ないましたよ
(空中の一点を見つめて)
寄る年波ってものがあるのさ、、、
落ち窪んだ目、その目尻に3本の深いシワ。其れはこの男の人生の軌跡そのもの。
———すみません、つい熱くなってしまいました
いいのさ、ほら、ニンニク入れるかどうかきいてるぜ
うずたかく積み上がった野菜とドラゴンの如き太麺ガソリンと見紛うスープ。
豚の脂のカオスに咲く豚肉のレンガ。
真の男を試す高き山。
———どうして、食べずに他の客を見つめてるんですか
(目を細めて)俺はね、闘ってる顔が好きなんだ
もしかしたら残してしまうかもしれない、そんな不安の中で、自分の胃を顧みず、女のケツにしゃぶりつくみたいに肉に食らいつく男の顔がさ、、、
———完食できない不安との戦いですよね、食い切れないなら、2度と店には顔向けできない、、
そうさ、2度と、のれんはくぐっちゃなんねぇ
———合衆国の西部にのれんは、、、、
ないね
意外と口が動く西部の男。しかし、どうも箸はなかなか動かない様子。
———どうですか、中のマシは
うん、これが、引退の味だ、な
———そんなこと言わないで下さい
いや、もう言わせてくれよ。俺はもうダメさ。
これからは、落っこちていく一方だろう。
“大”が“中”になり、“中”が“小”になり、
“小”が“プチ”になって、、、、奈落の底まで
———想像したくない。あなたが“プチ”だなんて
俺がまだ若くて血に飢えた狼だったころは、
「“プチ”なんて女子供の食いもんだ!」
って息巻いてたもんだがな
———僕はあなたのそのダンディズムに惹かれたんだ
ありがとう。
ただ俺はまだ干からびちゃいねえぜ。
この戦場の匂い、硝煙(Gun smoke)の匂いは永遠だ。俺は例え“プチ”に堕ちようとも、闘いの中に身を置きたいね。ヨイヨイになろうともな。
———その言葉を聞けて、とても嬉しいです
そして、カウボーイはしゃにむに豚肉にかぶりついた。すでに、栄光は過去のものだった。しかし、その喰いっぷりは、大マシマシを征服したあの頃を彷彿とさせた。ふと、目頭が熱くなる。
(麺を啜りながら)いつか、お前にアドバイスした事があったな。覚えてるか?
———なんでしょう
大量のモヤシはトラップだ、麺を食え、と
———しっかり覚えてます。忘れるわけない
無駄な食い残しのトラウマを生まずに済む。
———心に留めます
カウボーイは食った。食って食って食いまくった。
降りかかる汁を首のバンダナで拭き拭き食べまくった。そして、、、
もう駄目だ
———そ、そんな、、、
歳なんだ。しかたないさ。
お詫びにハーモニカでも吹くよ
ロッキー山脈の千尋に響くような、深くて哀しいハーモニカの音。
———これからどうするんです?もう会えないんですか?
さっきもいっただろ。
男にとって闘いは永遠だ。
ツラの皮は歳を食うたびに厚くなるんだ。
さあ、噛みタバコが一番美味い時だ
といって、西の男は店主に詫びを入れ
律儀に椀を上げテーブルを拭き
悠然と去っていった。
割れた顎に手を添え撫で回しながら。
筆者は心の中で呟く衝動を抑えられなかった。
うーーーーーーーーーん、マンダム
出演者:チャールズ・ブロンソン(妄想)
聞き手:武士岡大吉
**この記事には、現在の社会的状況にそぐわない不適切な表現が多々散見されますが、当時の気持ちを尊重し、そのまま掲載しています。
***ていうか、一乗寺池田屋のラーメンは、普通に美味しいラーメンですので、女性の方にもオススメです。最初はプチでどうぞ。
汚れてもいい服装でお越し下さい。男どうこうとかでは勿論無いです。
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